それは許される恋…ですか
きゅんと胸が狭くなる様な思いを受け止めて振り返った。
厨房のガスコンロには既に元栓が開けられてある。

冷蔵庫から出された仕込み済みの幕の内のおかずを鍋に移し替えて煮直す。沸点に達した後は暫く火を通してから冷ます。

白瀬さんとお母さんは賑やかに声を上げながら寿司飯を用意してた。「味付けは任せなさい」と言う母親の言い分を「味見してからだ」と言い張ってる。

可笑しくなりながらも準備を着々と続け、取り敢えずいつもの様に開店までこぎ着けた。



「開けるぞー」


白瀬さんの声がしてお母さんが「オッケーよ」と返す。
社長夫人とは思えない気さくな雰囲気に、昨夜からの気の重たさが引っ込み始めていた。

シャッターが上がっていくのを眺めながら、いつもの常連さん達の顔を思い浮かべる。
あの黒縁メガネの人は、今朝も居るんだろうかと思いつつ自動ドアが開くのを待った。



「いらっしゃいませー!おはようございます!」


一番乗りで迎えたお客さんは、やはり黒縁メガネの彼だった。
「鮭弁一つ!」の声に「はーい」と返事をしてカウンターの後ろにある作業台に着く。

容器と注ぐご飯の量をお母さんに教え、鮭弁当の盛り付け方を説明する。
フンフン…と納得しながらメモを取る人に(スゴいなー)と感心しながら蓋を閉じた。


「お待たせしましたー」


カウンターの作業台の上にある受け渡し口の台に乗せた時、ドキッと心臓が揺れた。


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