鈍感ちゃん(君)を攻略せよ!
やっぱり顔は赤かったようで、嬉しそうに笑った昴から顔を反らす。
『ごめん、足りない』
抱きしめる腕の力を緩めたかと思えば、そう言いながら後頭部に腕を回されて。
反論する間もなく、またキスされていた。
『イチャついてるとこ悪いけどさ、ここ、職場だからな?』
我にかえらされるようなセリフに入り口を見ると、ニヤニヤと笑いながら圭さんが立っていた。
その後ろに、ちゃっかり空くんまで居て。
湊さんは、私達を見て微笑んで居た。
………見られた?
絶対見られたよね、今。
『……昴の馬鹿!!!!』
私の悲痛な叫び声が響き渡った厨房は、すぐに笑い声に変わっていったのだった。
『もっと簡単にしろ』
『何が?』
離れた後、家に送ってもらう事になって。
いつもと違う事をしようと言った昴の言葉に、私の右手と昴の左手を絡めながら歩いていた。
夢みたいだなー…なんて考えていた私への言葉に昴を見ると、呆れた表情で私を見ていた昴と目があう。
ん?
呆れられてる理由が私にはあんまり分かんないんだけど…?
『お前を攻略するの、難しすぎる』
さすが鈍感ちゃんと一言付け加えた昴の言葉に、私の足が止まる。
私だって、言われっぱなしは嫌だし。
それに、そういう事なら私にも一言言わせてもらいたい。
『私が鈍感ちゃんなら、昴は鈍感君だよ。
未だに昴を攻略できてる気がしないし‼︎』
『ふーん…俺の事、攻略したいわけ?』
私の言葉に余裕がある笑みを浮かべた昴を見て、素直に頷いてみせる。
出来るなら、したいけど。
この先昴を攻略するなんて私には絶対無理な気がする。
『……既にコンプリートされてるけどな』
『昴? ごめん、聞こえなかったからもう1回言って!』
『何でもねえよ』
見た目は怖くて、でも優しくて。
少し意地悪だけど甘い物が好き。
『そろそろお前の家、つくだろ』
『本当だ…ありがと、昴』
『……別に』
ああ、あと1つ付け加えるとすれば、案外ツンデレで。
そんな昴を私が攻略出来るのは、当分先になりそうな予感です。