libido
「取って食ったりはしないから安心して乗って」

ジムの薄暗くなった駐車場で待っていた彼は、私の姿を見るなりそう言った。

「微妙に信じ難いですね」

何せ先日、もう食われたのだから。

「ふっ、いいから」

黒のSUV車。
エンブレムは有名な外国社のものだった。

助手席を開けながら、余裕に笑う男はどの歌舞伎役者にも負けない艶があった。

「どこ行くんですか?」

助手席、運転席、それぞれに落ち着いたところでそれを尋ねた。

「ドライブでもどうかな」

肯定の意味で返した相槌に、アクセルが踏まれた。
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