libido
「違ったかな?」

スーツのジャケットを片腕に掛けた彼は見慣れた人だったけど、言葉を交わしたのは初めてで、しかも内容があまりに不躾で、無意識に口調が喧嘩腰になってしまった。

「何故そう思うんですか?」

無視を決めこめば良かったものの、これでは相手の思う壺だ。

「何でかなぁ。君、男っ気無いからかな」

男っ気。

そんな言葉に思わず左手薬指に視線を向ける。
クリスタルガラスが並ぶキラキラと眩しい指輪は、お気に入りでもあった。

何の断りも無く、隣に腰を下ろしてからそう笑顔で返した彼は、この直後、いきなり私を食事に誘った。
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