放課後、ずっと君のそばで。


「でも、オーディションダメだったってよくわかったね」


「わかるわよ! あんた、何も言ってこなかったじゃない」


空から私に視線を落としたお母さんが笑う。


私は肩をすくめて苦笑した。


そうだよね......。

私が隠し事をしたところで、お母さんには全てお見通し。


私の周りには、私よりも私のことを知っている人ばかりだから、下手に嘘はつけない。


「莉子、あんた、今でも音楽が好き?」


車の乾いた車輪の音が、私たちの横を通りすぎて行く。


上から街灯に照らされ、一瞬お母さんの顔がはっきり見えたけど、その表情は色々な思いが入り交じった複雑な顔をしていた。


お母さんは私のことをよく知っているかもしれないけど、私も、お母さんのことはある程度知っている。


心配と、不安と、期待と。


私がどんな選択をしても、お母さんは理解してくれる。


喜びも、悲しみも、後悔も。自分で経験して成長するんだと、前にお母さんに言われたことがあった。


私が返事をせずにいると、またお母さんが口を開いた。


「小学校入学のとき、あなたお母さんに初めて音楽をやりたいって言ってきたのよ。覚えてる?」


「......うん」


覚えているに決まっている。


だってあの時。入学式の入場のとき。マーチングバンドの吹く音に衝撃を受けて、体中にビリビリと電気が走ったから。



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