放課後、ずっと君のそばで。


あの時は、本当に体の中で何かがパチンっと大きな音をたてて弾けたような気がしたんだ。


これだ! 私がしたかったのはこれなんだ!って。


みんなに話したら不思議がられるかもしれないけれど、あの時感じた衝撃は、たぶん一生忘れないと思う。


「トランペットを初めて手にした時の莉子の顔、本当にいい顔をしてた」


いい、顔?


「キラキラ目を輝かせて、まだ音は出せなくても、ただ手にしているだけで幸せって感じで」


「.........」


「お母さん、羨ましかったもん」


私は、どうして?と眉を上げる。


「好きなものを、体いっぱいで楽しめるって。お母さん、ちょっとその感覚を忘れてたとこあったから。小学1年のあなたに教えてもらっちゃった」


好きなものを、体いっぱいで楽しむ......か。


「だからね」


また、お母さんが空をあおぐ。


渋滞していた通りを抜け、住宅街に入った。


急に静かになり、ふたりの呼吸がはっきり聞こえるようになった。


「お母さん、好きな看護師の仕事、全力で楽しんでるんだ」


私を見て、お母さんがニッコリ笑う。



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