放課後、ずっと君のそばで。
何日ぶりだろう。
唇の振動が心地いい。
やっぱり音質は落ちていたけれど、トランペットの音が遠くに飛んでいくこの感覚は、私の細胞を暴れさせた。
ドレミファソラシド。
ドシラソファミレド。
ゆっくりと吹き終え、私は唇からマウスピースを離した。
非常階段を通り抜ける風が、束ねていない私の髪をサラサラと撫でる。
深呼吸をすると、体中に酸素が行き渡りとても脳が冴え渡った。
目がシャキッと覚めて、集中力が増す。
もう一度、高いドの音を長く伸ばした。
出来るだけ、遠くまで届け。
出来るだけ、長く伸ばせ。
ずっと吹いていなかったけど、体はきちんと感覚を覚えていた。
「よかった。順調そうだね」
突然かかった声に振り返ると、階段の上に立花くんが立っていた。
手にはトランペットを持っている。
「立花くん! なんで? 演奏は?」
今は県大会の自由曲を演奏中のはずだ。
私が目を丸くすると、立花くんは肩をすくめて眉をあげた。
「心配しなくていいよ。ちゃんと顧問には言ってきてあるから」
「え?」
「白石の基礎練を見てきますってね」
立花くんは陽気にそう言って、階段を下りてきた。
踊り場で私の隣に並ぶと、白い歯を見せてニッコリ笑う。