放課後、ずっと君のそばで。


何日ぶりだろう。

唇の振動が心地いい。


やっぱり音質は落ちていたけれど、トランペットの音が遠くに飛んでいくこの感覚は、私の細胞を暴れさせた。


ドレミファソラシド。

ドシラソファミレド。


ゆっくりと吹き終え、私は唇からマウスピースを離した。


非常階段を通り抜ける風が、束ねていない私の髪をサラサラと撫でる。


深呼吸をすると、体中に酸素が行き渡りとても脳が冴え渡った。


目がシャキッと覚めて、集中力が増す。


もう一度、高いドの音を長く伸ばした。


出来るだけ、遠くまで届け。

出来るだけ、長く伸ばせ。


ずっと吹いていなかったけど、体はきちんと感覚を覚えていた。


「よかった。順調そうだね」


突然かかった声に振り返ると、階段の上に立花くんが立っていた。


手にはトランペットを持っている。


「立花くん! なんで? 演奏は?」


今は県大会の自由曲を演奏中のはずだ。


私が目を丸くすると、立花くんは肩をすくめて眉をあげた。


「心配しなくていいよ。ちゃんと顧問には言ってきてあるから」


「え?」


「白石の基礎練を見てきますってね」


立花くんは陽気にそう言って、階段を下りてきた。


踊り場で私の隣に並ぶと、白い歯を見せてニッコリ笑う。


< 155 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop