放課後、ずっと君のそばで。


「みんなはどうか知らないけど、お母さんはいっもそうしてたわ」


ほら、やっぱり。


お母さんだけだよ、そんなことしてるの。


だって、浴衣を着て願い事をするなんて、意味がわからないもん。


お母さんは鏡で何度も確認しながら、浴衣が崩れないようにきつく締め上げた。


その度に、私の体が大きく左右に動く。


「高校の時にね、着付けの授業があるでしょ? お母さん、実は着付けって苦手だったの。ぜんっぜん綺麗に着れなくて」


お母さんは小さく肩をすくめた。


「何度やっても失敗するから、家でたくさん練習したのよ。こうやって鏡の前でね」


私の後ろから、お母さんが、鏡を覗き込む。


「紐を結ぶ度に、絶対誰よりもうまくなってやるんだって意気込んでたの」


「ふーん、そうなんだ」


素早く着付けてくれたお母さんは、箱の中からクリーム色の帯を取り出した。


「こうやって、最後に帯を巻くでしょ?」


私の腰に手を回し、帯を巻き付ける。


今まで以上に強く圧迫され、背筋がピンと伸びた。



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