放課後、ずっと君のそばで。
オーディションまでは1カ月弱。
それまでに、私の弱点を克服しておかなければならない。
間に合うかな......。
立花くんは、私達に手をふり、隣の教室に入っていった。
「オーディション、今年もあんのか」
教室に入っていった立花くんを見ながら、コウちゃんが静かに言う。
私も、静かに首を縦に動かした。
「来月、ね。もう1カ月もない」
とても短い時間。
その間に、どれだけやれるだろう。
不安でしかない。
コウちゃんは「ふーん」と素っ気なく言い、また、私の唇に目を向けた。
「それ、ちゃんとリップ塗っとけよ」
「え?」
私が目を丸くすると、コウちゃんはグっと私の唇を指差した。
「傷んでる。管理しとかないと、オーディション失敗するぞ」
コウちゃんは低い声でそれだけ言うと、ひとりで教室に入っていった。
コウちゃん......。
教室からは、友人達がコウちゃんに挨拶する声が賑やかに響いている。
コウちゃんに指差されてドキドキと加速する鼓動。
ううん。違う。
脈打っているのは、マウスピースの丸い跡のついた唇だ。
私は唇に手をあて、不安と緊張がない交ぜになった複雑な気持ちを抑えた。