黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「あいつが来る前にここから離脱するぞ」
そう言ってこちらに手を伸ばすヘリオトロープに、私は後ろを指さした。
「あ、あ・・・」
かたかたと指先が震える。
そこには、こちらに向かって口の端を裂く、絶望が立っていた。
・・・いつの間に。どうやって。
私の様子にヘリオトロープが振り向くより先に、びゅん、と黒い風が彼の体を殴る。
彼は咄嗟に抜いた鞘でそれを受け止めた。
「なんだ・・・」
「なんだとは失礼ですねぇ、相変わらずキミは。ただのご挨拶でしょう?」
破壊された窓枠に立って道化師は嗤った。
「知り合い、なの?」
小さく呟いた私の声にヘリオトロープは答えない。
「本当にいつも邪魔なところにいますねぇ。キミに用事はないんですよ。ワタシが用事があるのは、お姫様ですから」
そう言って道化師は私の方に仮面を向ける。
「ねぇ、お姫様。塔の外をちゃんとご覧になってみてください?」
その言葉に私は警戒しながらもヘリオトロープと共に下をのぞき込む。
「・・・っ」
2人でただ、息を呑んだ。
それは一言で表せば、混沌。
人々が皆こちらを指差し何事か口々に叫んでいる。
そしているはずの無いものが夜闇に浮いていて。
2対の羽で舞い、色とりどりの光を放ち爆発を生み出しているあの生き物は。
妖精―――エルフ、だ。
男たちは戦い始めていて、数では勝っているものの、伝説だと思われていた魔法という力に太刀打ちできないでいる。
女子供は突然我が身を襲った脅威に走り逃げ惑っていた。