黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
目を凝らすと、どうやら動きが止まっているのはエルフだけのようで、ヒューマンが好機とばかりに攻め立て始めていた。
これでは形成が逆転しただけではないか。
「ど、どうして・・・?」
ぐらりと揺らいだ私の体をヘリオトロープが抱きとめた。
もう私の視界にはヘリオトロープと仮面の男が映るだけ。きっと能力は切れてしまっただろう。
ヘリオトロープは身を盾にするように呆然と佇む私を背後に隠した。
しゃらん、と音を立てて、ヘリオトロープが焔の剣を抜く。
それを向けられた道化師は両手を挙げた。
「そんな物騒なもの向けないでください・・・ワタシは大人しく撤退することにしますのでぇ」
ふざけた動作にヘリオトロープが眉をひそめる。
「突然そんなことを言っても信じられるわけがないだろう!」
睨みつけるヘリオトロープに道化師は全く困ってはいさなさそうな様子で顎に手をやった。
そして左手をゆっくりと上げる。
びゅっ、とその指先から黒い筋が立ち上り、それを合図のように戦っていたエルフが一斉に雲の上に消えていった。
それを満足そうに見た後、道化師は口を開いた。
「んー、まあ、端的に言えば時期尚早だったことに気がついたわけですよ。
どうやら・・・お姫様の封印は、まだ完全に解けてはいないようですし、能力を理解しても使いこなしてもいないようですので。そんな状態ではワタシの手に余ります」