黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「完全に、解けていない?」
彼の言葉に思わず反応してしまう。
道化師は大きく頷いた。
「おそらくは・・・アナタを待っている間が暇なので、1度撤退してじわじわと追い詰めていくことにします。まあ思ったよりも弱くて倒してしまったら、またどこか別の国に進みますけれど。
良く理解してくださいね、お姫様?この国の民たちは、そしてこのセカイの人々は、人質でもあるのですよ?」
道化師の男が言っていることが本気だと理解したのだろう。
ヘリオトロープが私をひょいと抱え上げた。
・・・でも、ここで私が逃げたところで、何になる?
「残った時間でせいぜい、争いを止める方法でも探してきたらいかがですか?そんなもの、あるはずもないですけれどね。アハハ!
結末はもう決まっているのです。アナタはワタシの隣で新しいセカイのはじまりを見るのだと。」
私の心中を見透かすように、男は嗤った。
それを無視してヘリオトロープが塔の隣の城の屋根に向かって踏み切った。
すれ違いざま、囁き声が耳を掠めた。
「月夜には気をつけた方がいいですよぉ、姫様」
「え・・・?」
意味深な言葉に思わず振り向いたが、もうその姿はずっと先だった。
私はヘリオトロープの腕に抱かれ、凄まじい速さで闇を疾駆する。
―――私は確かに、この少年とどこまでも翔んで行ってみたいと、そう願ったけれど。こんな形でなんて。望んでなかった。
気味の悪いほど大きく輝く月が、私たちを照らしていた。
それは、泣きたくなるほどに綺麗な満月で。
私はただ、目を細めた。