黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「・・・朝?」
「そうだ」
やっと状況を把握した私がどうにかそれだけ呟くとヘリオトロープがスプーンでとろりとしたスープを掬いながら頷いた。
「夜が明けた後、町に入った。ちなみに今は宿の中だ」
いたって冷静に話すヘリオトロープの声に、私ははっとして背中に手をやり、耳の縁に触れた。
私の指先は空を切り、耳は丸く弧をなぞる。
そのことに多大な安堵を抱きながらも、困惑に目を泳がせる。
「・・・宿なんか、どうやって入ったの?わ、私、羽が生えたり、とか・・・っ」
「ないだろう」
「うん、ない、けど・・・今は」
まさか、昨晩は全て夢だったとでもいうのだろうか。
そんな淡い願望を打ち消すようにヘリオトロープは口を開いた。
「さっき、夜が明けた後、と言っただろう。
俺にも正直よくわからないんだが、日が昇って来る頃、月が隠れるのと比例するように、お前の姿も・・・元に戻った」
元に戻った、という前に少し彼がためらったのは、そう言うのが正しいのか否かがわからなかったからだろう。
私にもわからない。私の本来の姿をヒューマンと言うべきなのか、はたまたエルフと言うべきなのか。
ヘリオトロープがかちゃりと手に持っていたスプーンを皿に置いて、立ち上がった。
窓から町をのぞき込みながら、私を手招きする。
私は全く手をつけていなかったので、そのままゆっくりと彼の隣まで移動した。