黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

だから私は傍目にも鮮やかなアザレアピンクを袖を引っ張って隠す。

見ていると口にしてしまいそうで。まだふわふわとしている“それ”が現実味を持って私に覆い被さってきそうで、怖かった。



ヘリオトロープが食べ終えたのを見て、すっかり冷め切ってしまった全く手のつけていないお皿に私はスプーンを置く。

ヘリオトロープは何か言いたそうにこちらを見て口を開いたけれど、結局そのまま深く息を吐き出しただけで自分の分と私の分のトレーを持って部屋を出て行った。

その背を見送りながら私もそっと息をついた。

わかってはいるのだ。きっとヘリオトロープも何か私に言いたいことがあるのだと。

そして、彼女の死にショックを受けているのは私だけではないのだと。

でも、今は他人にまで気を遣えそうになかった。どうしたらいいのかがわからない。


帰ってきたヘリオトロープがドアを開けた音に私は座ったまま顔を上げる。

ヘリオトロープが私の顔を暫く見つめて、顔をなんとなく怒っているような悲しんでいるような微妙な表情に歪めた。

その表情に疑問を抱きつつ、それを尋ねる前にヘリオトロープが口を開く。

「じゃあ行くぞ」

その言葉に何も考えず従おうとして、私は立ち上がったまま動きを止めた。

「あの、私、何も隠すものがない、んだけど・・・」

「・・・そうか、そうだったな。出るついでに新しい外套も買うか・・・この町に防具屋があったかどうか」

最後の方はほとんど独り言のように小さく呟きながら、ヘリオトロープは外套の内側から短刀を取り出すと自分の黒い外套の下の方を無造作に破るようにして切った。

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