黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「とりあえず、情報を集めるなら酒場だな。その後に防具屋を探すとしよう。俺もこの際新調するかな」
私に話しかけているのかどうなのか微妙な感じでぶつぶつと呟く彼の言葉に、私は小さく数度頷いた。
*
古めかしい宿の入口を開けると、やはり窓越しとは違う強い日差しが私の目を焼いて思わず目をそばめた。
王都と違い人通りの少ない道に私はこっそり胸をなでおろした。
そのまま2人とも口を開くことなく無言で歩みを進める。
なんとなく居心地の悪い沈黙に私は何度か口を開いたけれど、何も言えなかった。
少し歩くと思っていたよりもすぐに酒場の看板が見えてきてほっと息を漏らす。
ヘリオトロープが木製のドアを開けるとからんからんと軽いベルの音が響いた。
その音に近くに座っていた数人が振り返って肝を冷やしたけれど、すぐに興味を失ったように各々酒を煽り噂話に花を咲かせ始める。
そもそもほとんどの客はざわついた店内のそんな小さな音に気づくこともなく、心地よい喧騒に身を委ねているようだった。
外の様子からは予想もできないほど多くの人々がひしめく店内を人と人の間を身を縮めて滑り抜けるようにして進む。
ようやく空席を見つけ、2人で腰を落ち着けた。
かなりカウンターに近い席で、私は思わず腰を浮かせてカウンターの方に目をやってしまう。
その様子を見たヘリオトロープが苦笑する。
「お姫様はもちろん酒場も初めてだよな」