黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
現れたのは、見覚えのある、獣耳を生やした悪戯っぽい笑みを常に頬に湛えた少女の顔。
あの時とは違い右眼の下の辺りに緑色の逆三角形のような形の印が入ってはいるものの、この少女は。
「クワオア・・・!」
思わず口を出たその名に、私はばっと口を両手で覆う。
すっかり忘れていたけれど、私は―――口がきけないことになっているんだった。
「アムネシアスムリィ姫様、お久しぶりね」
・・・だから、そう彼女が私が喋ったことに動揺もせず、至って普通に返事をしたことに少なからず驚いた。何故、と。
「お前、知り合いなのか」
ヘリオトロープの問いに私がぎこちないながらも頷くと、クワオアが彼に向かってにやりと笑った。
「そう言うキミは、さっきあたしの名前を聞いて、まるで知っているみたいな顔をしたわね?
あたしの記憶違いでなければ会うのは初めてだと思うのだけれど、気のせいかしら?」
「会うのは初めてだが、クワオア―――お前のことは知っている」
挑戦的な口調のヘリオトロープに、クワオアが楽しそうに口の端を上げる。
「あたしも会うのは初めてだけれど、キミのことを知ってるわよ。確か、ヘリオトロープ、だったかしらね?」
「・・・何故、名前を」
警戒心も露わに硬い声になった彼に向かってクワオアがひらひらと手を振った。
「多分、キミと同じ理由よ。
・・・キミも聞いたんでしょう―――“彼女”から私のことを」