黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
木が覆い茂る暗闇になんの躊躇いもなく突っ込もうとするクワオアに、私は慌てて声をかける。
「クワオア、何処に行くの?そんな所通り抜けられないよっ・・・?」
戸惑い立ち尽くす私に答えたのはクワオアでは無くヘリオトロープだった。
「今のは解除の呪文の類だ。恐らく・・・Changeのな」
その声に肩越しに振り返ったクワオアが耳をぴこぴこと動かして手を叩く。
「ご名答!こんな森の中でしょ、不用意に迷い込まれでもしたら困るからこうして術をかけてるのよ」
そう言って、とても人が1人通れるようには思えない木と木の隙間に軽い足取りで飛び込んだ。
ぶつかる、と。目を細めた私の視線の先で、その姿が―――揺らいで、掻き消えた。
茫然とそれを見つめていると、ヘリオトロープが歩き出す。
自分を追ってきていないことに気がついたのだろう、ヘリオトロープは1度大きく息をついて振り返ると、私の手首を掴んで引き寄せた。
急激に詰まる距離に息を呑む。
「ったく、面倒臭い、行くぞ」
ぶっきらぼうに投げかけられた声に、不機嫌そうに歪められた顔に、ただ上下に首を振る。
軽く引っ張られる腕。
何の抵抗もなく動く足に、私はこっそり笑いを零した。
・・・認めざるを得ない。
私は、この少年に―――必要以上に心を委ねてしまっているのだと。
私の目の前でふわふわと揺れる紫に、きゅっと胸が疼く。
彼に手を引かれ、クワオアが消えた辺りまで歩みを進めて行くと、
視界が曲がって、真っ白に染まった。