黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「・・・セカイの理に反すること、って具体的には?」
私の言葉に一瞬動きを止めたクワオアは、それを誤魔化すようにまた机の上に手を伸ばす。
「そうね・・・例えば、時間の流れを止めたり、かしらね」
その言葉にどことなく引っかかるものを感じて、クワオアの顔を見つめる。
クワオアが少女ながら長をしている理由。それに繋がっているような気がして。
ただ、それが声にならない。つまり、それは―――
「お前みたいに、か」
広い室内に、淡々としたヘリオトロープの声が響いた。驚く程に反響して返ってくる。
クワオアは笑った。それは、なんだか達観したような、諦めたような無気力な微笑みで。
ああ、そうなのだと、彼女の口から聞く前にわかってしまった。
「そう、・・・あたしは、禁術を使ってしまったの。ずっと、ずっと昔。本当に興味本位で、そんなのただの噂だろうって、全然信じてなかった。
でも神の力は、そんな軽い気持ちで手を出して良いものではなかった。その代償は、対価は、恐ろしい程に大きかった。
不老に変わった身体と引き換えに、あたしは時間に取り残されてしまったの。・・・不死。それがあたしの代償。
もうどれほど前なのか、全然わからない。あたしの外見はずっと、過ちを犯した時のこの少女の姿のまま。心だってずっと、その時の、まま。
それから何度も何度も村の皆が先立っていくのを見たわ・・・何をやっても、あたしが皆に追いつくことは絶対にできなかった。時が進まないというのは想像していたよりもずっと辛いものだった、のよ。
自分が本当に生きているのか、ここに存在しているのか。皆が当たり前に時を刻むことでそれを証明しているのに、それすらあたしにはできないのだから」