黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

そう言ったあと、兄様は軽く目礼した。

「挨拶がわりに、恐れながら私のBoostをお見せしようと思います」

その言葉に父親はここぞとばかりに激しく頷く。
「カムルのBoostは王国一とも言えるほどです。是非見て頂きたい・・・竪琴を」

その声に傍に控えていた従者の1人が恭しく竪琴を兄様に差し出す。

微笑みをもってそれを受け取った兄様は、ぽん、と弦を弾いた。

彼はぐるりと1度人々を見回した後、口を開く。

「『私は貴方を助けたい』」

彼が口にしたそれは、唄の起句―――能力の発動句。ぶわっと何処からか視覚を呆気なく奪うほどの濃密な光が注ぐ。

竪琴の旋律に乗せ、彼は口角を上げて楽しげに“唄う”。

「『こんなに良い天気なのに貴方はどうやら元気が無いようだ』」

私は何かがうごめく気配を感じて振り返る。

後ろには観葉植物が咲いている。本来なら桃色の小さな花が沢山咲く種類の木なのだが、今の季節は白みがかった蕾がついているだけだ。

その蕾が、膨らんでいた。今にもはちきれそうに。

円卓に座る面々も気づいたようで皆こちらを見ている。

兄様はそれはまるで視界に入っていないように、木だけを愛おしそうに見つめて、そっと詞を唇に乗せた。

「『麗しい花々よ・・・

私に可憐な笑顔を見せておくれ』」

その唄が空気を震わせた途端、蕾が一層膨らみ、待ってましたと言わんばかりに、ぱちんと音がしそうなほど勢い良く花開いた。1つ2つではない。全ての蕾が、一斉に。

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