黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
そんな私の様子に苛立ったようにヘリオトロープが銀の眼帯を朝日に煌めかせ、目を眇めた。
「うるさい。ここに来た時みたいにゆっくりゆっくり歩いていたら時間がかかりすぎる。俺が走ればほんの数時間で着くからな」
「で、でも、いつも思ってるんだけど、せめて背負うとか駄目なのかな?きみもそっちの方が楽だと・・・思うんだけど」
そういえば、いつもお姫様抱っこで1度も背負われたことは無い気がする。
文句を言う私を無視してヘリオトロープが足を踏み込んだ。
・・・この感じ。懐かしいな。
まだこの少年と出会ってからそんなに時間は経っていないというのに。
全ての出来事がはっきりとした彩を持って私の脳裏に次々と焼き付いていく。
数日前のことが、もうすでに懐かしい。
私が感慨に耽っているとヘリオトロープが口を開いた。
「・・・道は戻るが、」
そこで彼は息を継ぐ。私は彼の目を覗き込んで後をついだ。私が思うなりの言葉で、だけれど。
「気持ちは戻ってなんかない。でしょ?
・・・大丈夫。もう進まなければいけない、進むしかないってことはわかっているから」
そう言って口の端を持ち上げた私の顔を見て、ヘリオトロープは軽く目を見張ってから小さく鼻を鳴らして前を向いた。
・・・そう、わかってるの。それ“は”。
これから渦中の中に身を投じなければならないと。それだけは、わかっている。
でも、やっぱり―――目指すべき結末が、見えない。
えも言われぬ不安に押しつぶされそうで、私はこっそりヘリオトロープの外套を握った。