黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
私は花壇の傍にしゃがみこんで、ひとつの花をそっと指の腹で撫でた。
ゆっくりと顔を近づけると、ふわり、とバニラのような甘い香りがして、思わず頬が緩む。
名前も知らない紫色の花。私はこの花が好きだ。
陽の光に向けてぐっと背を伸ばすこの花を見るのはとても、好き。
この花を見ると・・・私の姿とはかけ離れ過ぎていて、少し胸がきんと鈍く痛むけど。
「・・・ねぇ、」
情けない自分の声に思わず苦笑が漏れる。
久しぶりに出した声は無様に掠れて震えていた。
「きみは・・・どうしてそんなに真っ直ぐに、太陽を目指せるの?」
それを塗り潰すように、私は言葉を重ねる。
「私は、そんなふうに、なれない・・・こうして、毎日何もかも隠して、生きていくの」
そう、私は。
そっと唇に指先で触れる。誰の前でも、決して震えることの無い唇に。
「話せない、わけじゃない・・・でも、“声が出てしまえば全てが解ってしまう”から、」
そこまで呟いてから、私は視線を落とす。
「だから・・・私は、話せないフリを、しなければ」
私が口を閉ざせば、また直ぐに静寂と花の香に包まれる庭園。
ゆるゆると視線を戻せば目の前の紫はやっぱりひたすらに真っ直ぐで。
私は、殆ど無意識に唇を震わせた。
「・・・『私は貴方を助けたい』」
零れ出たのは唄の起句。
楽器はないけれど、私は確かに旋律を紡ぐ。
「『貴方の瞳を曇らせるものは何?貴方の心を騒がせるものは何?』」
花はただそよそよとその紫の花弁を揺らした。