黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
その真剣な声の響きに、私は背筋を伸ばした。ヘルも少なからず雰囲気は察したようで、ドゥケレに真っ直ぐに視線を向けている。
ドゥケレはずっと隠していた大きな秘密を暴くように、そっと声をひそめて話す。
「・・・ディラン様は実は、元はヴァンパイアじゃないんっすよ」
「・・・どういうことだ?」
ヘルの訝しげな声に、ヴァンパイアの少年は堰を切ったように言葉を続けた。
「ディラン様は、元は・・・ヒューマン、だったんっす。ある日、先代国王の元に現れて、懇願したんっすよ。『僕を眷属にしてください。僕には時間が足りないんです』って・・・そんなヒューマン、いや他種族も見たことがなかったんで、オレたちはびっくりしたっすけどね。
結局根負けしてディラン様を眷属にした先代は元々ご年配だったのもあって、面白いから・・・とか言って純血でもないディラン様に王位をお譲りなさったんっす。
それからはディラン様がこのヴェルメリオ王国を守ってきてくださったんっすよ。でも、種族を変わってまで叶えたかったディラン様の願いは叶えられないままなんっす・・・」
「元、ヒューマン!?そんな、時間が足りないって、つまりは長寿になりたい、ってこと・・・?」
長寿になることで苦しんだ少女を私は知っている。獣耳を楽しげに揺らし、容貌にそぐわぬ大人びた表情で微笑む、彼女を。
そんな苦しみを味わってまで、叶えたい願い、って。
思わず出た叫び声に、ドゥケレは重々しく頷いた。
「そうっす。ディラン様には、ずっと会いたい人がいるんす。いや、正確には会ってるんすけど、もう・・・ディラン様って分かってもらえないんす。
黒い髪に、紅い瞳。そして名前も。・・・ヒューマンだった時とは全部変わってしまっていたから。
タリオ・・・それが、ディラン様の捨てた、ヒューマンの時の名前っす」