黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
耳を、疑った。
「―――っ、タリオっ!?」
身を乗り出した私をぎょっとした顔で2人が見つめる。
「ど、どうしたんっすか・・・」
タリオ。それは、“彼女”がずっと追い求めている名前で。
めをぱちくりとさせるドゥケレに、私は笑いかけた。
「・・・私、話さなくちゃ。“タリオ”と」
そして私はろくに返事も確認しないまま駆け出して、タリオが入っていった部屋に飛び込む。
ノックもしなかった私に驚いた顔をしてタリオが振り返る。彼がどうしたんですか、とつまらない問いを発する前に、私は声を張った。
「―――タリオ!」
ぴたり、とこちらに歩み寄ろうとしていた“タリオ”の足が、止まる。
「何故その名を・・・ああ、ドゥケレですか。もう、捨てた名なんですけれどね・・・」
「本当に、捨てていいの?」
私の言葉にタリオがびくりと肩を跳ねあげた。
「だって、僕はもう“タリオ”じゃないんです。・・・彼女に呼んでもらう名前は、もう、ないんですよ」
最後の方は自分に言い聞かせるように呟く彼に、私は決定的な一言を、囁く。
「“メルレア”」
「っ、何故・・・!」
「私、彼女に会ったの。口のきけない、マーメイドの少女に。
・・・彼女はずっと、きみを想ってる」
「・・・やめてください。もう僕は、ヴァンパイアだ」
私の言葉を懇願するような口調で遮るタリオの声を、私は無視する。だってそれは・・・本心じゃないでしょ?
「名前を捨てるなんて駄目。彼女が呼んでくれたその名前を」
「でも、もう僕の名前が呼ばれることは・・・!」
「あるよ」
彼の言葉に被せるようにして私は断言した。その語調に釣られるようにはっとタリオが顔を上げる。