黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「・・・後悔なんてしてないよ、ただ」
ちょっと怖いな、ってそう思っただけ。そう呟くと、ヘルは懐かしい憎たらしい顔で片頬を吊り上げた。
「心配するな。俺たちがふたりで考えた、最高の作戦だ。・・・そうじゃなかったのか?
もうこれで全てのピースが集まった。あとは、明日。決行するだけだろ」
「うん・・・」
私はそっと手を伸ばして、ヘルの片手に自分の指を軽く絡めた。
「これが、正解、だよね?きっと、うまくいくよね?」
ヘルはぎゅっと握り返してくる。指が痛くなるほど、力強く。
「正解なんてない。成功するかなんて、わからない。
全ては俺たち次第だ。
皆が幸せに過ごせるセカイを、創るんだろ?」
「・・・そうだね」
ヘルはいつだって、私に目指すものを、くれる。見失った道標を、照らしてくれる。
「―――きみは、私の陽«ひかり»だったの。ずっと。きみがひたすらに太陽“目的”に向かって進むその道が、私の光だった」
囁く私に、ヘルはただ黙って手を指し伸ばした。
何かを私の左耳の上あたりの髪に、そっと挿し込む。
私はそれの形を確認するように表面を指先でなぞって、自分の目がみるみるうちに見開かれていくのを自覚した。
「これって、兄様がくれた花・・・もう無くしてしまったと思っていたのに」
「絶対に無くすと思ってその前に取っておいた。そしてお節介かもしれないが、もう枯れないように加工しておいた。」
嘘、もう、無いと思っていた、兄様の・・・形見。
『僕は―――セルティカ王国の、“王”になるよ』
と、そう笑った兄様の顔が、じわりと記憶の中から、炙り出されて。
「・・・さすが、宮廷庭師様」
冗談めかした声は、震えていたかもしれない。
でもヘルは、だろ?とただ笑った。
彼は息を大きく吸って、その割りには小さな声で、私に言う。
「・・・明日も早い。ちゃんと、寝ろよ」
「うん」
私は頷いた。もう私は・・・ひとりで眠ることができる。
沢山の人の想いと、熱を抱えて。
私はこのセカイで最後の、眠りにつく。