黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
新しいセカイの始まる日
「じゃあ、私たち・・・行くね」
扉に手をかける私たちに、ドゥケレが白と黒の大きな布を抱えて、首を傾げる。
「お姫さん、お兄さんも、本当にこれ、要らないんっすか?」
私たちは示し合わせたように同時に顔を見合わせた。そして、微笑む。
「・・・うん、要らない。もう、必要の無いものだから」
「そうだな」
「・・・なら、いいっすけどね」
悪戯を始める前の子どものような私たちの仕草に、ドゥケレがやれやれ、とでも言いたそうに首を竦めた。でもその頬は笑みの形をとっている。
それを見たヘルが部屋から出ていく。私もそれに従おうとすると、タリオに呼び止められた。
「あの、その髪に挿さっている花、ヘリオトロープ、ですよね?」
「・・・・・・え?」
たっぷりと時間を要して放たれた素っ頓狂な声に逆に驚いたようにタリオがたじろいだ。
え、この花が・・・ヘリオトロープっていう名前なの?
待って、私何度もヘルの前でこの花“ヘリオトロープ”が好きって言ってしまったような気が。
みるみる顔に溜まる熱に私は思わず呻く。その様子を怪訝そうに見ながらタリオは口を開いた。
「えっと、いや、いい花だなって思ったんです。ヘリオトロープは『太陽へ向かう』っていう言葉を意味してるんですよ。そして、花言葉は『熱望』『永遠の愛』」
「太陽へ、向かう・・・」
本当にその言葉は彼を表しているようで、ふっと堪えきれずに笑ってしまった。
そこで私ははたと気がついてタリオに尋ねる。
「ねえ、もしかして、『ルリジサ』っていう名前の花、あったりしない?」