黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
私に笑われたことに拗ねたように、ヘルがひょいっといつもより乱暴に私を抱え上げた。
でも、そのまま私をぎゅっと抱きしめる。
「・・・さあ、本当の、はじまりだ」
そう言って、微かに身体を震わせる。
「ねえ、その震えは、武者震い?」
私がそう言って、にやっと笑ってみせると、ヘルは私よりも更ににやっと笑って、
「当たり前だろう!」
とそう叫んだ。
「行くぞ、しっかり掴まれよ」
「・・・うん」
私が頷いたのを確認して、片翼の少年は足を踏み込む。その踵が、ぐりっと地面にめり込んだ。
今までめいっぱい伸ばすことのなかったその羽を、“飛ぶ”ことができるはずがないと否定し続けていた羽を、真っ直ぐに、空に向けて。
ヘルは―――片翼の騎士は、お姫様を抱えて、大空へ、空高く飛び上がった。
風を切る音が、痛いほど耳に突き刺さる。目を開けていられない。
ぐんぐんと高度が上がっていく。風が私の頬を強くなぶり、結った髪を生き物のように激しくくねらせる。
しばらくして、ぼすっ、というような軽い音がして、私たちは雲を抜けた。眼下に信じられないほど遠くにまでずっと雲海が広がる。その向こう側から朝日が登ってきていて、真っ白い雲を少しずつ黄金色に染めていた。
「結局、」とそれを静かに眺めながらヘルはひとりごちる。
「全部、俺の心の持ちようだったってわけだ―――片翼なんて関係なかった。俺は、空を飛べる翼を、持っていたんだな」
私はその言葉にただ頷いた。朝焼けを照り返し本当に嬉しそうに目を細めて微笑む彼の顔は、とても言葉では言い表せないほど―――そう、愛おしくて。
ずっと見ていたいと、そう思ったけれど。
私たちは、進まなければならない。この、幸せな時間をまた掴むために。