黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
だから私は甘い誘惑を振り切って、ヘルの耳元で囁いた。
「・・・行こう」
少年もその場から動きたくなさそうに幾らか身じろぎしたけれど、息をつくと今度は体を下に向けた。
「場所はわかるよね?」
「当たり前だろ。・・・ずっといた場所だ。俺も、お前も」
そうだ。
私たちは、原点に戻って、そして―――始める。
ヘルがもう一度大きく息をついて、急降下を開始した。
*
とん、と静かに降り立った私たちを見て、ヒューマンの王は―――オルカイトルムネは、そして―――私の父親は、少しだけ目をみはった。
「・・・何故、帰ってきた」
無感情に、でもどこか納得したような様子でそう呟くオルカイトルムネに、私はあえて巫山戯て尋ね返した。
「捜索願を出していたのは、“父様”じゃないの?」
そんな私に今度は驚きの色を浮かべて、オルカイトルムネは口を何度か開閉させる。
そして、結局絞り出した言葉は「・・・なんだ、復讐か?」で、私たちを苦笑させた。
「なんで父様に、私が復讐なんてしなければいけないの?」
「だってお前は・・・私を憎んでいただろうに」
彼の言葉は苦々しげにはき出されたけれど、どうしてか哀しそうに聞こえた。
私は気付かないふりをして、ただ相槌を打った。
「まあ、それは否定できないけれど。・・・そんなくだらない理由でわざわざこんなところ、来ないよ」
「では・・・何故だ」
僅かに顔を強ばらせるセルティカ国王に、私は努めてにっこりと笑ってみせた。
「新しいセカイの始まりを、報せるために」
「なっ・・・」
オルカイトルムネは途方も無い言葉に息を詰まらせ、しばしして・・・囁いた。
「お前は、本当に・・・我が娘、アムネシアスムリィ、なのか?」
呆然と零す父様に、くすりと笑ってしまいそうになる。
でも、その気持ちはわからなくはない。だって自分でも思うから。あの、塔に閉じこもっていた“私”は、一体誰だったんだろう、と。
「さっきから父様変なことばかり聞くけれど・・・そう。
私はアムネシアスムリィ・ラ・レテ・セルティカ。
妖精王“ティターニア”と人間王の間に生まれた、忌まれし破滅を喚ぶハーフエルフ。」