黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
そこまではあの時私に言ったドゥケレの言葉と一緒。
でも、私はここでもう一度、息を継ぐ。
「・・・そして、新しいセカイを、愛する片翼の騎士と、創る者」
目を伏せながら、私は湿気った暗い、あの塔の事を思い出していた。
あの頃の“私”が、私の中からいなくなることは無いだろう。
私が“私”を忘れることができないから。あまりにも無知で、怖がりで、可哀想だった“私”を。
そして―――そこから救い出してくれた1人の少年のことを。
オルカイトルムネが、後方によろけた。そして手探りで場所を探ると、覚束無い足取りで、ゆっくりと玉座に腰を埋めた。私にはまるでそうでもしなければ、自分の立ち位置がわからなくなるとでも言うように見えた。
オルカイトルムネが、ぼんやりと私の黄金の瞳をそのまま見つめて、酷く驚いた様子でひとことぽつりと零した。
「お前・・・プレティラに、似ているな」
私は母様の娘なのだから、当たり前のことだと思う。
でもオルカイトルムネはそのことにまるで初めて気がついたかのように、ただ目を見開いて私を見つめる。
そしてその言葉がきっかけになって、次々と彼の口から文字が紡がれる。
「・・・私が愛したのはプレティラだった。あの日、初めて彼女を見た時の感動を、今でも私は忘れはしない・・・ああ、エルフでも何でもいいと、そう思ってしまった。
彼女が連れていた赤ん坊に騎士団と宮廷庭師、ふたつのポストを与えてどうにか私のところに踏みとどまらせた。そこまでは良かったのだ、そこまでは・・・
しかし、お前が生まれた」
彼の口からはっきりと母様の話を聞くのは初めてだった。オルカイトルムネが窺うように私に視線をやったのがわかった。伏せられた目からは、表情を判断できない。
「・・・しかしな・・・やはり、禁忌は禁忌であるがゆえに禁忌たりうるのだ。お前が生まれてから、プレティラは狂ったように毎日何事かを呟いていた。
それから突然いなくなり、やっと見つけたと思ったら・・・美しかった両翼は、無くなっていた」
それは、母様が私のためにクワオアの元へ置いていったから。全部知っている。彼は今、それが私の胸元にあるのだと知ったら、どんな反応をするのだろうか。
「私にとってお前は、私とプレティラの幸せな生活を壊した存在でしかなかった。
口を閉ざし、笑わず、子どもらしく駄々をこねもしない。私は恐ろしかったよ」
「・・・」
それはその通りだと思うから。私は何も言えずに、固く口をつぐんだ。オルカイトルムネが再び口を開く。
「しかし、違ったのだな」
「・・・え」
私はその声の響きに、顔をあげて真っ直ぐに彼を見据えた。