黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「お前が笑わなかったのは、わがままを言わなかったのは、私が目を逸らしてお前をしっかり見ていなかったから・・・愛していなかったからなのだな」
「え、」
「今のお前は、まるで私が出会った、私が見とれた、彼女の黄金に・・・そっくりだ」
老いた王の瞳は、薄くてらてらと輝いていた。
きっと、若かりし頃の母様が映っているのだろう。彼が見とれた、深くピンクに輝く宝石のような彼女の髪が、私のよりずっと黄金色に光る大きな瞳が、子供っぽい悪戯っ子のような笑顔が。
顔の至るところに深く刻まれた皺を、私は今初めて見た気がした。この人はいつの間に、これほど歳をとっていたのだろう。
「・・・本当に良く、プレティラに・・・似ている」
オルカイトルムネは幼く掠れた声でそれだけ言うと、深く頭を垂れて沈黙した。
それを見ながら、私は正直、感情を持て余していた。
今更そんなことを言われても、私は。
立ち尽くす私に、そっとヘルが触れた。
「大丈夫。お前は・・・お前だ。思い出せ、こいつは、城の奴らは、お前のことを『アムリィ』とは呼ばなかっただろう。お前が本当は望んでいたお前を、呼んではくれなかっただろう。
今更何と言おうと、こいつはお前のことを見てくれてなんていなかった。お前が信じるお前だけが、本当の自分だ」
はっ、とした。
「お前の居場所は、お前だけのものだ。お前の価値は、お前が一番よく知っている。自身を持て。俺が保証する」
「・・・」
そうか、そういう、ことだったんだ。
私が気が付かない間に、塔の外の世界で出会った多くの人々との出会いが、新しい“私”という存在を形作ってくれていたのだ。
「そっか」
じゃあ、やっぱり、私は。私たちは。
その皆のために、このセカイを、やり直すのだ。
私は一度大きく頷いた。ヘルが私をすくい上げるように流れる仕草で抱えて、また飛び立つ。
私もヘルも、どこを目指したらいいかなんて、とっくの昔にわかっていた。
私は、壊れたままの、あの日私が壊したままの塔へ、足をつけた。
この国で1番高い塔。そして、1番エルフの国―――“あいつ”に近い場所。
私は、ただ声を張るわけでもなく、存在を示した。
「・・・来たよ」
そう囁いた途端、私とヘルが立つ中間の辺りの景色が歪んだ。歪んで―――1人の、道化師が現れる。
「やっと・・・ですね。待ちくたびれましたよぉ」
そう言って仮面の下で笑う“少年”に、私は呼びかけた。
「もう、それは、終わりにしよう?」