黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

「・・・は?それ、って何のことです?」

道化師が、冷静を装ってそう言って首を竦める。

でも私はもう、彼の正体が、分かってしまった。

私が答えないでいると、焦燥を隠すように道化師は呻く。

「何、って言ってんだろ・・・!」

そして右手を振り上げ、その先から出した黒煙を私に向かって剣のように振り下ろす。ヘルが剣を引き抜き、“弾いた”。

それを見て道化師は嗤う。

「あはは、やっぱりあんたは結局のところ、俺を否定できないんだよなぁ。可哀想だとか思ってるんだろ?憐れだとか思ってんだろ?兄貴と違ってこんな実体を持たない不完全な能力しかない俺を!」

また道化師が腕を振り下ろす。さっきよりもずっと大きく、太く、早い。

そう、彼の力は、『その存在を否定できない者に幻術を本物だと思わせる力』。

“彼の兄である”ヘルが、弟の能力を否定できるはずがなかった。

私は胸元を握り、小さく呟いた。

母様、どうか。

「『汝、其の姿惑せ』」

その瞬間、私の体が光に包まれる。何事かと見守る2人の前で、私は。

光の消えた後の私の姿を見て、道化師が仮面越しでもわかるほど血相を変えた。

「なんで・・・よりによってその姿なんだよ・・・やめろよ・・・!」

そんなことをぶつぶつといいながら、絶対に本物ではないとわかっているはずなのに、私に向かって突進してきた。

ヘリオトロープの姿に変身した、私に。

ヘルが駆けつけようとしたのを、目で制する。

私は振り下ろされる黒煙の剣を避けなかった。私にはその必要は、無いから。

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