黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
「私は貴方を助けたい」
最初は、やっぱりこの言葉を。
Boostの起句として口に出した時には何も起こらなかったこの言葉が、私の腕の中のブリギッドを、酷く熱くさせる。
「貴方は、ひとりぼっちなんかじゃない」
私が、何よりも伝えたい言葉。
エルフにしか伝わっていないはずの詩を、ヒューマンが知っていたこと。
エルフしか使えないはずの魔法を、ドワーフもマーメイドも使えたこと。
それはきっと、私たちが皆、ずっとずっと昔には繋がっていたのだと。私にそう思わせるには充分だった。
「貴方は、弱くなんかない」
私が、ずっと信じられなかった言葉。
「貴方は、狡くなんかない」
私が、ずっと自分をそうだと思っていた言葉。
「・・・貴方の横に、隣に、いつも傍に・・・いる人を見て。それは、誰?」
私は自分で口ずさみながら、すぐ横を見やった。ヘルが、彼の黄金を細めて優しく微笑んでいた。
「大切なひとに。大切なことに、気がついて」
私はゆっくり頷いて、先を続ける。
「・・・貴方は今、幸せですか?」
私は、ヘルの手に、指を絡めた。その瞬間、ふたりの手の間から、眩い光が走った。
そこからぶわっと広がる燐光が、このセカイの端から端までを、みるみるうちに一面虹色に塗りつぶした。
「自分を、見失わないで。自分を、信じて」
きっと、あなた達にも見つかる。
私も・・・ずっと探していた私の力を、見つけたから。
私の力は、『人の心を動かす力』。
そう、使い方を間違えれば、セカイを滅ぼしていたかもしれなかった、いちばん小さいけれどいちばん大きくて、いちばん弱いけれどいちばん強い、力。
私にも、できることがあったのだと。
「私は、貴方を助けたい―――」
唄と呼べるほど崇高なものなんかじゃない、ぶつ切れの詩。でも、私が、黄金の唄姫として。
私の―――唄えない歌姫の、セカイに愛を謳う唄。
そして、ヘルが最後の句を、囁く。
「・・・全ては我が手に」
セカイは光に、愛に包まれたまま、誰にも気づかれぬまま、そっと、
―――壊れた。
微かな、微かな崩壊の気配と共に、後ろから眩い朝日が追いかけてきた。