黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
彼女は微かに息を吐いた。
「本当、頑固ねえ」
「貴方こそ」
「前々から言っているけれど・・・せめて、名前で呼んでくれないかしら?」
今度はこちらがため息をつく番だ。
名前で呼ぶという行為があまり得意ではないのだが、彼女はそれを強いてくる。
今まで人との交流はほとんど無に等しかったため、特に困らなかったのだ―――わかっている、このままでは駄目だと彼女が思っているのは。
そしてそれが、どうしてなのかも。
「・・・プレティラ様」
「様、なんて他人行儀なモノ要らないんだけど・・・それはさすがに無理強いかしらね」
俺が名前を呼ぶと女王は微笑んで顔を傾け、さらりと肩から滑り落ちたアザレアピンクはシャンデリアの光に反射して銀に光った。
俺がそれを目で追いながら黙り込んでいると、彼女はぽんと手を叩いた。
「そうだ、今日は何の花を持ってきてくれたの?まさか、ヘルに限って仕事を忘れるなんてこと無いでしょう?」
ヘル、と呼ばれて顔をしかめる。
「変な愛称で呼ばないでくださいって言ってるじゃないですか・・・当たり前ですよ、今日は・・・これです」
俺は外套の中に手を突っ込む。
指先に触れたのは先ほど花を入れた細長い瓶。それを引っ張り出す。
・・・俺は宮廷庭師である―――別に好き好んでこの仕事をしている訳では無い。
それならば何故こんなことをしているのかというとこの女性が大きく関わっているのだが、こうせざるを得なかったのだと。やむを得ない事だったとわかっている。