黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
宮廷庭師の仕事は、城の庭園の整備をすることにあるが、本来の重要な役割は城内の花を毎日入れ替えることなのである。
城中、つまりはここのように誰も訪れないであろう隅に隠れたようにある部屋の花も。
おそらくは、自分がこの部屋を訪れる唯一の存在でははないだろうか。
そんなことを考えながら、ガラス造りの小さな一輪挿しに花をそっと差し込む。
その紫の花弁を認めたプレティラが口の端を曲げた。
「あら、ヘルったら、気障なことするのね。それ、ヘリオトロープじゃない」
違う。言われるとは思っていたけれど。
まあ、自分と同じ、というか名前をそこから付けた由来の花を持ってくるなど、確かにそう思われても弁明のしようがないが。
「これは、そういうつもりで摘んできたんじゃなくて・・・」
そう、これは。
伝わらなかったようだったが、あの少女に俺の名前を教えるために―――
言葉を止めた俺を怪訝そうにプレティラ様は見やってきた。
「どうかしたの?」
俺は、一度、大きく呼吸をする。
それから、口を開いた。
「・・・プレティラ様。聞きたいことが、あります」
深刻そうな俺の雰囲気に、プレティラ様が息を詰めるのがわかった。
顔を強ばらせて、落ち着かない様子で豊かな深桃色の隙間から存在を主張する尖った耳の縁を指先で触れる。
「・・・何かしら?」
俺は黄金の双眼を見つめ返し、知らないうちにすっかり乾き切った唇を湿らせた。
「“籠り姫”を・・・アムネシアスムリィ・ラ・セルティカをご存じですか」