黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
一生懸命思いだそうとしていると、ぐっと顎を掴む力が強まって思考がぷつんと途切れた。
首元にあった男の頭が離れ、鼻の触れそうな距離で道化師の顔が歪む。
「最後に笑うのは俺だ・・・逃げられると思うなよ」
突然低くなり口調の変わった声に驚く。
でもそれは驚く程に自然で、ああ、きっとこっちが素なんだろうとわかった。
「な、何を言って、るの・・・」
絞り出した私の声に、男はただ嗤った。
そして次の瞬間にはひらりと私から距離を取り、優雅に腰を折る。
黒闇に白の仮面だけが浮き上がり、不気味だった。
道化師は微笑む。
「すみません、不躾な真似を。では、またお会いしましょう。
―――ワタシの、“姫様”。」
それだけを言い残し、ひゅっ、という軽い音と共にその姿は掻き消えた。
*
私は筋肉が悲鳴をあげるほどの早さで目を開けた。
じわりと滲む痛みと見慣れた薄闇が視界を覆う。
「っは・・・」
じっとりと嫌な汗をかいている。
私はのろのろと手を伸ばし、そっと顎から首にかけてをなぞった。
まだ掴まれているような感覚がして、堪らず強く擦る。
何度も往復して肌がひりひりとしてきた頃、やっと手を離すことができた。
「・・・夢なんて、ずっと見ていなかったのに」
ぽそりと呟く。自分の声でも聞いていないと気が変になりそうだった。
「変なことばかり言ってたな・・・なんて、言ってたっけ」