黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

一生懸命思いだそうとしていると、ぐっと顎を掴む力が強まって思考がぷつんと途切れた。

首元にあった男の頭が離れ、鼻の触れそうな距離で道化師の顔が歪む。


「最後に笑うのは俺だ・・・逃げられると思うなよ」

突然低くなり口調の変わった声に驚く。

でもそれは驚く程に自然で、ああ、きっとこっちが素なんだろうとわかった。

「な、何を言って、るの・・・」

絞り出した私の声に、男はただ嗤った。

そして次の瞬間にはひらりと私から距離を取り、優雅に腰を折る。

黒闇に白の仮面だけが浮き上がり、不気味だった。

道化師は微笑む。

「すみません、不躾な真似を。では、またお会いしましょう。

―――ワタシの、“姫様”。」

それだけを言い残し、ひゅっ、という軽い音と共にその姿は掻き消えた。




私は筋肉が悲鳴をあげるほどの早さで目を開けた。

じわりと滲む痛みと見慣れた薄闇が視界を覆う。

「っは・・・」

じっとりと嫌な汗をかいている。

私はのろのろと手を伸ばし、そっと顎から首にかけてをなぞった。

まだ掴まれているような感覚がして、堪らず強く擦る。

何度も往復して肌がひりひりとしてきた頃、やっと手を離すことができた。

「・・・夢なんて、ずっと見ていなかったのに」

ぽそりと呟く。自分の声でも聞いていないと気が変になりそうだった。

「変なことばかり言ってたな・・・なんて、言ってたっけ」

< 46 / 295 >

この作品をシェア

pagetop