黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
全部がわかる、とか、逃げられると思うな―――とかなんとか。
・・・全部、意味がわからなかった。
自分の夢のはず、なのに。
『―――ワタシの、“姫様”。』
道化師の声が脳裏に響いて、思わず耳を塞ぐ。
意味は無いとわかっていても、嗤うその声はどうしようもなく私に嫌悪感を抱かせた。
それに、彼の発した“姫様”という呼称は明らかに異質な響きを含んでいて、呼ばれなれているはずのその言葉に今でも背筋が粟立つ。
何もわからないから全てが感覚頼りだけれど、
どうしようもなく、嫌な感じ。
でも、それと、何故か、
―――安心感。
まるで同じものに溶け込むような、包み込まれるような、安心感。
そんなの有り得ない。そんなものを感じる自分にも寒気が走る。
気持ちが、悪い。
もう部屋はか細い光の筋と、薄暗さに覆われているのに。
もう朝は、やって来たのに。
「・・・こわい」
私は膝を抱えてうずくまった。
しばらくして部屋の外から響いてきた音に肩をそびやかす。
だんだん近づいてくるこの音は多分、足音。
いつもドアをノックする音で目が覚めるから、不思議な感じだ。
そう、朝まで。いつも夢なんて見ずに、深い深い闇に落ちているのに―――
その音に耳を傾けていると、いつの間にか部屋の前まで来ているようで、1度だけこつん、と鈍く響いた後、止まった。