黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

この、声は。

別に聞きたい声というわけではないけれど、あの男の声なんかよりはずっと良い。

緊張から解放されて思わずへたりこむ。

薄い服を通して伝わる床の冷たささえも気持ちよかった。

灰色の床を見つめていると、ぎいい、とゆっくり嫌な音を立てながらドアが遠慮がちに押し開けられた。

「アムリィ、こんな朝早くにすまない。って、ど、どうしたんだい・・・?」

上から降ってくる戸惑った声に、私はしょうがなくのろのろと立ち上がった。

私の視線よりも大分上にある眉を潜めた心配そうな顔。

白髪に黒の瞳を歪めているのは兄様、だった。

兄様の声に私は左右に幾度か首を振る。


・・・そうか、兄様なら、確かにドアを勝手には開けないだろうな。

でも、何故ここに。

いくら私のことを気にかけてくれているとはいえ、今までこの塔にはさすがに来たことは無かったのに。

隠せていないんだよ?兄様。
ほら、足が微かに震えているの。

本当は、怖いくせに。不気味なくせに。

私のこと。


・・・まあ、いいや。そんなの、今更すぎるから。

思考を停止し、その代わりに兄様に向かって首を傾げる。

何か、大切な用があるんでしょう。


兄様はまだ私に怪訝そうな顔を向けていたけれど、やはり早く立ち去りたいのか、私の動作に口を開いた。

「アムリィ。もう少ししたら、リーンさんが君を起こしに来るだろう・・・そして、その後謁見の間に連れて行かれるはずだ」

< 49 / 295 >

この作品をシェア

pagetop