黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
この、声は。
別に聞きたい声というわけではないけれど、あの男の声なんかよりはずっと良い。
緊張から解放されて思わずへたりこむ。
薄い服を通して伝わる床の冷たささえも気持ちよかった。
灰色の床を見つめていると、ぎいい、とゆっくり嫌な音を立てながらドアが遠慮がちに押し開けられた。
「アムリィ、こんな朝早くにすまない。って、ど、どうしたんだい・・・?」
上から降ってくる戸惑った声に、私はしょうがなくのろのろと立ち上がった。
私の視線よりも大分上にある眉を潜めた心配そうな顔。
白髪に黒の瞳を歪めているのは兄様、だった。
兄様の声に私は左右に幾度か首を振る。
・・・そうか、兄様なら、確かにドアを勝手には開けないだろうな。
でも、何故ここに。
いくら私のことを気にかけてくれているとはいえ、今までこの塔にはさすがに来たことは無かったのに。
隠せていないんだよ?兄様。
ほら、足が微かに震えているの。
本当は、怖いくせに。不気味なくせに。
私のこと。
・・・まあ、いいや。そんなの、今更すぎるから。
思考を停止し、その代わりに兄様に向かって首を傾げる。
何か、大切な用があるんでしょう。
兄様はまだ私に怪訝そうな顔を向けていたけれど、やはり早く立ち去りたいのか、私の動作に口を開いた。
「アムリィ。もう少ししたら、リーンさんが君を起こしに来るだろう・・・そして、その後謁見の間に連れて行かれるはずだ」