黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う
自分の身体が扉を抜けたのを確認してから、私はこっそり息を吐き出す。
やっぱり、ここは、息が詰まる。
私は顔を俯け胸をそっと撫で下ろした。
「じゃあ、アムリィ、後は帰るだけ、だ、ね・・・?」
前を歩く兄様の声が変に途切れているのを不思議に思って前に視線を向ける。
「ごきげんよう」
豪奢なドレスに身を包み、深紅の髪を高く結った女性が扉のすぐ横の壁にもたれかかるようにして立っていた。
兄様が私を背に隠すようにして立つ。
「・・・このようなところでどうされたのですか、マリア・ルクムエルク嬢。」
「やだ、挨拶も返してくださらないの?次期国王ともあろう御方が・・・ふふ、そんなにおかしいのかしら、宰相の娘が“このようなところ”にいるのが」
マリア・ルクムエルク。宰相ダイアン・ルクムエルクの娘で、本来ならこのように城の中を自由に闊歩できるような身分ではないのだが、国王が宰相に強く出られないのだから、当然の結果とも言えよう。
人を馬鹿にするような口調と嘲笑うような笑い方は、確かに彼女とダイアンが血の繋がった親子だということを表していた。
彼女は右手に持った扇を口に当て、蛇のようにぬるりと兄様に歩み寄る。
近くに顔を寄せ感じ悪く微笑む彼女に、兄様は嫌悪感を隠すこともせず後ずさった。
「・・・何のご用事ですか」
睨みつける兄様にマリアは笑みを深めた。