黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

「いいえ?特には。偶然通りかかっただけですわよ?」

「偶然・・・ですか」

「ええ」

にこりと口角を上げる彼女の表情はとてもそうだと頷けるものではなかったけれど、兄様は聞き流すことにしたらしく、私の腕を軽く引き寄せた。

「・・・それでは、私たちは失礼致しますね」

何か言われるかと思ったものの、彼女は意外にも私たちを引き留めることは無かった。

どこか腑に落ちない思いをしながらも兄様に腕を引かれて歩みを進める。

彼女の前を兄様が通り過ぎ、私が通り過ぎる瞬間―――


「ふふ、何も知らない、お気楽なお姫様。自分の価値を知らない、可哀想なお姫様。貴方は、わたしたちが上手く“使って”あげる」

粘着質な囁き声が耳朶を叩き、思わず耳を抑え振り返る。

もう、声の届く距離にはいない。

ちらりと兄様の横顔を盗み見るものの、変化はなかった。

恐らくは私にだけ聞こえるように言ったのだろう。

彼女の爬虫類じみた笑みが脳裏に貼り付いて離れない。

頭を占めるのは、混乱。

・・・いったい、どういう・・・


「・・・え?何?アムリィ何か言った?」

兄様に振り返られ、ばっと口を覆う。

嘘、口から零れてた?今。

「なんて、そんなわけないよね。僕も気が立ってるのかな。ごめんね」

はは、と笑う兄様を見ている限り、聞こえるか聞こえないくらいの小さな声みたいだったけれど。

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