だから、お前はほっとけねぇんだよ
「俺、フランス行くよ」
……あたしの目を見据えてそう言う琥侑。
その眼差しはあまりにも強くて、あたしは思わず涙が出た。
「……何泣いてんだよ」
琥侑は少し焦ったように、あたしの涙を自分のエプロンで拭いた。
その瞬間、あたしの鼻をかすめたエプロンに付いたケーキの香り。
「何か、ホッとしちゃって……」
「アホかよ、お前は」
そんな琥侑の憎まれ口も今のあたしは関係なかった。
本当に、本当に嬉しい。
「琥侑……頑張ってね」
「当たり前だろ」
あたしのか細い声とは対照に、強い琥侑の声。
……唇から漏れる息は白く、藍色の世界があたしたちを包む。
夜はいっそう深さを増して、公園の電灯だけが光を導く。
『俺、フランス行くよ』
そう言った琥侑は、この空の星なんかよりもずっと、綺麗に輝いていた。
……そして、
彼の横で寂しさを呑み込んだのは……あたし。
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