GREATEST JADE~翡翠の瞳に守られて~
「バカね」

泣きそうになるのを一生懸命抑えながら、私は少しだけ笑った。

「こんなに冷たい身体で、あなたの方が心配。風邪とか流行ってるし。それにっ!……それに、来客にコーヒー淹れてもらうとか変でしょ?!黙って座っててよ。そりゃあ、あなたの方が上手なのは分かってるけど。でも私がやる。全部私がやる」

……これは、私のお礼。

こんな事しか出来ないけれど、二週間後の満月の夜、私は死んでしまうかもしれない。

ううん、かもじゃなく多分死ぬんだと思う。

死に対する実感はまだないけど。

今はその恐怖より、律の本心の方がショック。

死ぬ事よりも、裏切られた事や失恋のが心の中で占める割合が多いのもなんか変だけど、今はこの心境をどうにも出来ない。

「じゃあ……おとなしく座ってる」

ボソッと呟いた後、ソファに戻る雪野一臣の姿を見ながら、私は思った。

今日、今この瞬間に独りじゃなくて良かったって。
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