Sweet Hell
明日はいよいよジャスティンに逢える日。
今日という日がいつも以上に無駄に感じるのは
それだけジャスティンに逢えるのを心待ちにしているということなのだろうか。
切り替えて仕事に集中出来ない自分が、
愚かなような気がして少し虚しくなった。

有価証券の元となるドラフトをイエローマーカーペンを使ってチェックを入れていく。
一字一句きちんと見ていかないといけないのに
妄想が頭の中を支配して、書類の文字が頭に入ってこない。
いけないとも思いつつも、このまま何事もなく1日が過ぎれば良いのにと思ってる。

「もう、本郷さん笑わせないでくださいよー」
遠くで秋葉さんの笑い声が聞こえた。
「本郷さんのボケ面白いんですけどー」
隣にいるみほの声さえも遠い。
みんなのやりとりを聞き流しながら
どうでもいいことでどうせ笑ってるんだろうなと他人事のように思った。

「ねぇねぇ、楓も聞いてよ。
ってか、あんたその書類、随分と念入りにチェックしてるわねー」

みほに声をかけられて私は頭を上げ彼女の方を見た。

「間違えたらペナルティになるから、一字一句見てるのよ」と私は応えたが
そう言うほどのチェックはしてなかった。

「本郷さんがねー」

その時、私のデスクの上にある子機が鳴った。

「ごめん、みほ。経理からの内線だ」

そう言うと私は受話器を取った。

経理からの電話は大抵良いことないから
内心ビクビクしながら声を発した。

「もしもし・・・」

「もしもし?木下さん、忙しいとこ悪いんだけど
有価証券のオリジナル書類まだ提出してきてないよね?」

「え?有価証券?なんかありましたっけ」

「いや、こっちが聞きたいわよ。今、銀行から追い出しが来たから聞いてんだけど」

「え?」

そういえば先週輸出した分のオリジナル書類が来てないかも。
なんで・・・あっ!!

「まずい!!」

「え?」

「船会社に振り込みするの忘れてた」

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