Sweet Hell
ラーメン屋に到着すると横引きの扉を音を鳴らしながら開け、
店の人に案内されるまま空いているカウンター席に腰掛けた。
店内には数人の男性客と老人、1人の女性がカウンターに座っていたが
やはり私たちが店内に入って来ると皆が一斉にこちらに視線を向けてきた。

辺りをキョロキョロしながら”アメリカにはない雰囲気だね”と言って
私の隣に腰掛けるジャスティン。
店内にいる人たちの殆どが彼に釘付けだった。
確かに、昭和の良さを残したような少し古びた店内に
金髪碧眼のバリバリのアメリカンボーイが座っていると違和感ありありだろうと思った。

「注文は何にしますか?」と声をかけられ
私は味噌ラーメンを頼んだ。
隣の彼は日本語で書かれたメニューが読めず困っていたので
私は”これが美味しいよ”とメニューに載せてある写真を指差した。
すると彼が”わぉ!本当に美味しそうだ!”と応えたので私は醤油ラーメンを頼んだ。

ラーメンが出来上がるのを待つ間、私は緊張で目のやり場に困ったし
どうしていいかも分からなかった。
それもジャスティンが嬉しそうに話しかけてくるたび
みんながチラチラと見てくるからだった。
彼とただ会話するだけでこんなに注目を浴びるとは思わなかった。

家族のこと、学校のこと、色々話してくれるんだけど
私はまともな相打ちが出来なかった。
”メープルって大人しいね”
「え?」
”さっきから返事ばっかで。メープルからもなんか話してよ”
”お、OK。あーアイムハングリー”
すると彼は面白かったのか大きな声で笑い声を上げると
私の頬を両手で包み込み、
”君はなんて可愛いんだ”と言って至近距離から見つめてきた。

ひー!!止めてくれ!
心の中で絶叫する。
皆が一斉に目を逸らして見ないようにしてるのが雰囲気で分かった。

そんなことを全く気づかないジャスティンは
私の顔をじっと見ながら
”どうかした?具合でも悪いの?”と
優しい気遣いをしてきたけど大きな勘違い!

”ノー。ただお腹すいてるだけ”と言って
心の中では早くラーメン来て!!と叫んでいた。
これ程までにラーメンを強く求めたことは
今までだって一度もなかった。

するとお店の人は「おー!見つめ合っちゃって仲良いね!」と
私と周りに気遣ったのかいらん一言を加えると
「へい、お待ち!」と言って味噌ラーメンと醤油ラーメンを
テーブルに置いた。

私はラーメンの出現にまるで天の助けでも来たような
喜びを感じてすぐにジャスティンに向かって”ラーメン来たよ”と言った。
彼もラーメンに気づき、”OK”と言うと私の唇にチュッとキスをしてから
テーブルに向き直った。

ふぅー恥ずかしい。私は箸を二膳取ると彼に一膳渡そうとした。
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