Sweet Hell

”物足りない？”
”え？”
私が下を向きながらちまちまと着替えをしていたので
彼が心配そうに聞いてきた。

「あ、いや、その・・・」
返答に困っていると彼が近づき、
私のブラウスのボタンを一緒に閉め始めた。

”悪かった・・・”
「え？」
”今回はこれでおしまいだけど
今度は誰にも邪魔されずに一緒に過ごそう”と
声をかけてきた。

彼のその言葉は私にとって見当違いなのか
救いの言葉なのか一瞬分からず戸惑ったけど
私は彼を見上げると”サンキュー”と応えた。

彼は”よし”と言って私の頭にキスをすると
”行こう”と言った。

私も”イエス”と応えると二人ラブホテルを後にした。


彼が私の肩に手を置きながら
私の操作する携帯の画面を覗き込んだ。
私たちはナビを見ながら目的地に向かっていた。

”メープル！あれじゃないか？”
そう言われて彼が指差す方を見ると
数人の客が店の前で立っているのが目に入った。

”ダディ！マーム！”そう彼が叫んで手を振った。
向こうも私たちの存在に気づいたのか
彼の名を呼んで息子との再会を喜んでる様子だった。

もう、あの案内人の日本人女性はいなかった。

”ずっとジャスティンに付き添ってくれてありがとう。
せっかくなのでメープルさんのことを知りたい。
一緒に寿司を食べましょう”と彼の父親が声をかけてきた。

私がお礼を述べると妹が訝しそうな目で
お兄ちゃん達は何をしてたのと聞いてきた。

家族の前でも彼は私の肩に置いた手を外そうとしなかったので
おそらく私たちが急に親密になったことを彼女が訝しがったのだろう。

さすがのジャスティンもラブホとは言わず
”散歩してた”と応えた。
”どこを？”
そう聞かれて返答に困った彼は手を挙げたままフリーズしてしまった。

わかりやすい反応に私は思わず噴き出すと
”スカイツリーの近くまで歩いたのよ”とフォローした。

キャサリンは”そうなの？”と言うとあまり納得してないのか
”それは良いわね”と驚くほどの低いテンションで応えた。