Sweet Hell
全速力で彼の前まで来ると
心の中では書類ですと思いながら
「はひーはひー」と荒い呼吸しながら彼に書類を渡した。

「すいません、ここまで来させてしまって」

「いえいえ、お構いなく。間に合ってよかったです。はぁはぁ」

「走って・・・くれたんですね。本当にすいません。でも助かりました」

「いえ、では、これで」

「あの・・・」

「え?」

私は呼び止められ彼の方を振り返ると
「木下さん、なんか雰囲気変わりました?」と彼が聞いてきた。

出勤時も秋葉さんやみほに同じことを聞かれたけど
それには触れず「そうですか?」とあまり気に留めずに聞き返した。

「あ、はい。なんか、その・・・。あーうまく言えないですね」

「はぁ」

「あのお詫びに何か今度ごちそうしますよ!」

「いえいえ!いつだったか私が有価証券発行し忘れた時に対応して頂いたんで
これでチャラですよ」と笑顔で応えると
「あぁ、そうですか」と本郷さんは残念そうに応えた。

「それでは戻りますんで」

「あ、はい。今日は本当にありがとうございました!」とお礼を言って
彼は深々とお辞儀をした。

私は踵を返すと駅に向かって歩き始めた。
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