Sweet Hell
あの日以来、本郷さんは仕事中私に触れてくることはなかった。

その変わり、私が仕事で困っているとよく助けてくれるようになった。

優しい、彼は本当に優しい。

課長が「彼は本当に良くできた男だ。本当にうちに来てくれて良かった」と
彼を褒めていたのを聞くと本当に私の彼氏は素晴らしい人なんだと実感する。

部下にも一目置かれて、女性陣にも人気があって
頼りがいがあって優しくて私を好きだって言ってくれて。
私は嬉しいはずなのに誇り高いはずなのに
なのに何かが心に引っかかる。

金曜日の夜、仕事が終わると本郷さんと一緒に
ホテルのレストランでディナーと食べた。

「来週昇格試験なんだよ。部長が色々と指導してくれるんで助かってる。」

向上心もあるしきっとこの人とだったら将来安定だろう。

顔も恰好良いし、身長も日本人にしては高い方だし、申し分ない。

「実はここのホテルでの宿泊も予約してるんだ。窓からの夜景も綺麗だと思うよ。
と、いっても楓はいつもラウンジから見てるか」と彼が軽く笑った後、
私の反応が薄かったのか少し困った顔をしながら「ごめん、楓って呼んでも良い？」と
聞いてきた。

「え？」

「楓って呼んでも良いかな？」

”I love you, Maple"

「メープルが良い・・・」

「え！？」

「ううん。なんでもないの、ごめん。楓で良いよ」

「ありがとう。俺のことも大介で良いからさ」

「大介さん？」

「はは、そうそう。なんか照れるなぁ。恋人同士みたいだなって
恋人同士か」と言って彼が笑った。

彼の歯並びは決してお世辞でも良いとは言えなかった。
私はジャスティンの整った歯並びと輝く白い歯が好きだったなぁと思った。

「あ、ごめん。タバコ吸って良い？」

彼がタバコを吹かしてる間、私は周りの席のカップルを見た。
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