Sweet Hell
ディスプレイを見ているとその付近で英語の会話が聞こえてきた。

”ここのホテルすごく綺麗で素敵。良く予約出来たわね”

”ダディに頼んで一ヶ月前から予約してもらったんだよ。君のためにね”

”まぁ、素晴らしい!さすがジャスティン”

流暢な英語で何一つ聞き取れなかったけど、ちょっと気になったので
私は顔を上げてその二人を見た。

あ、さっき私の横を通り過ぎた外国人カップルだ。

モデルのように美人ですらっとした女性は彼女よりも長身の彼に
ベッタリくっつき、彼は彼で彼女を抱きしめると
彼女のおでこにキスをした。

やがて彼女が彼の方を見上げると二人は少し見つめ合い
唇と唇を重ねキスをし始めた。

あーやだやだ。ここは、日本だよ。TPOを考えなさいよ、TPOを。

私は、ため息を吐くとまたディスプレイを眺め始めた。

”ジャスティン・・・・”

彼女の色っぽい声に反応して私は一瞬、え!?となった。
私は恐る恐る顔を上げると彼らはまだキスの真っ最中だった。

二人が唇を離すと私の視線に気づいたのか、二人がこっちを見てきた。
すると女性の方はまた彼の方に視線を戻したが
グラサンをかけた男性だけは私の方をじっと見つめていた。

”もう、ジャスティンどこ見てるの。こっち見て”と言って彼女は彼の顔を両手で掴むと
またキスをし始めた。

”ねぇ、ずっとあの子こっちを見てるわよ。キスが珍しいのかしら”と笑いながら
その女性は彼にキスを繰り返した。

”ねぇ、あなたの格好良い顔を見せて”と言ってその外国人女性は
彼のグラサンを取り上げた。

その瞬間、私の心臓がドクンと波打ち、
思考が停止した。
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