Sweet Hell
"Nice to meet you"と言って彼が手を差し伸べた。

私も恐る恐る"Nice to meet you, too"と言って
彼と握手をした。

彼は満面の笑みで私を見つめた。

***

私の妄想の中では彼は優しくて明るくて
私の失言なんかもう気にしてなくて、許してくれてて
笑顔で再会を喜んでくれるのに
現実はそんな生易しく無くて。

私は、BARに戻るのも馬鹿らしくなり
そのまま部屋に向かった。


エレベーターで上階に登り、私達が宿泊する部屋の階に到着するとエレベーターを
降り、そのまま部屋番号を見ながら探し始めた。

その時だった。
酔っ払った中年おじさんが扉の前に立って何か喚いていた。

げっ!

関わりたくない。一旦戻ろうと思い、踵を返そうとしたら
「よう、姉ちゃん」と言って声をかけられた。

「ヒッ!!」

おじさんは馴れ馴れしく近寄ってくると私の肩に腕を置き、
「おう、姉ちゃんべっぴんさんじゃないか。ちょっとお酌に付き合ってくれよ」と言って
絡んできた。

「あ、あの止めてください」

何これ、やだ、何この酒臭いおっさん。

「ほら、あそこがワシの部屋だからさ。来いよ」

「い、嫌!止めてください!!大介さーん!!」

大声を出しても誰かが来てくれる気配もなかった。

「呼んだって無駄だよ。誰も助けに来やしないよ。
ほら、大人しくしてたら悪さはしないんだからさー」
そう言っておじさんは無理やり私を部屋に連れ込もうとした。

本当にやだ。助けて!
そう思った時だった。
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