好きにならなければ良かったのに

「香川と組むことを承知したんだろ? だから香川はあれほど俺に強気の姿勢でいられるんだろう?」

 幸司が何故そんな考えに至るのか、美幸は胸が締め付けられる思いで瞳を潤ませる。

「私は一言もそんなことは……」

 どうしても幸司に強い瞳で見つめられると萎縮して上手く言葉が出てこない。心臓がドクンと跳ねるように高鳴ると、更に言葉に詰まってしまう。

「答えろ。お前が香川に頼んだのか? 部長の名前を持ちだしたのか?」
「そんな……」

 まるで追い詰められる小動物の様に怯える美幸を見て幸司はハッと拳を握りしめる。

「……美幸」

 名前を呼ばれ胸が一瞬ドキッとしながらも、美幸の躰は正直にビクリと震える。幸司をまるで恐れている様な美幸に、幸司は握りしめる拳に力が入る。
 いつの間にか美幸を怒鳴りつけている自分に気付くと、先ほどよりは少し柔らかな物腰で美幸に訊く。

「正直に話してくれないか? 香川に素性を話したのか?」

 しかし、ビクビクとした美幸はまだ言葉にならなく、潤ませた瞳で頭を左右に振る。

「そうか。悪かった。つい、香川にお前を取られるのかと思って」
「え?」
「俺はお前を誰にも渡す気などない。だから、安心しろ」

 美幸は頬を少し赤らめて頷いた。幸司からそんな甘いセリフを言われただけで、直ぐにその気になってしまう。自分でもバカげていると思いながらも、やはり幸司からのそんな告白めいた言葉は嬉しかった。

「そんなにビクビクしないでくれ。会社での美幸は別人のように明るいだろう。いつもあんな美幸でいて欲しい」

 照れくさそうに頭を掻きながらそう言うと、幸司は美幸に背を向けて病院の方へと歩きだす。幸司に背中を見せられた美幸は思わずその背中に抱きつく。

「美幸?」
「私、幸司さんの傍にいてもいいの?」

 意外なセリフを聞かされた幸司は振り返ると、美幸をギュっと包み込む様に抱きしめる。

「当たり前だろ」
「本当に? でも、幸司さんには……」

 『晴海がいる』と言いかけた美幸だがその言葉は言いたくなかった。
 しかし、美幸が言いかけたその言葉の続きに見当がついた幸司は、美幸の腰を引き寄せると頬に手を沿え唇を重ねた。

「……んっ」
「美幸」

 外は既に日が沈み暗くなったとは言え、二人がキスをしているここはまだ病院の駐車場だ。屋外で抱き合ってキスをする二人。誰かに見られているかも知れないのに、幸司はそんなことはどうでも良くて、今はただひたすら美幸にキスしたくて堪らなかった。

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