好きにならなければ良かったのに

 幸司のキスがとても甘くて頭の芯まで蕩けてしまいそうになる美幸は、思わず膝がガクンと落ちそうになる。これ迄キスは何度もしてきたのに、こんなに幸司に求められるような熱いキスをされたのは、とても久しぶりのことの様に感じて、美幸は恍惚としてしまう。

「美幸、大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」

 美幸の声が少し震えるようにも聞こえるが、それよりは脚に力が入らない美幸が今にも腰を抜かしそうな様子に、幸司はこのまま拐って行きたく胸がウズウズしだす。

「顔がずいぶん赤いな」
「だって、その、幸司さんがキスするから……」
「いつもしてるだろ?」

 やはり幸司の鋭い瞳に見つめられると美幸は胸がトクンと高鳴る。夫婦になって、幸司に恋人がいたと宣言されてからも、幸司とキスしなかった訳ではないし、肌を重ねなかった訳でもない。
 これ迄、何度も幸司とはこんな行為はしてきた。けれど、何となくこれ迄の幸司のキスとは違う気がする。

 だから、幸司の言葉に首を縦には振れなかった。

「キスだけじゃ不満か?」
「そ、そんなこと……」

 キスだけで満足しないとなると、それはベッドを意味することくらい初な美幸でも想像はつく。確かに今のキスと同じ様に情熱的に抱かれたらこんなに幸せな時間はないだろうと思える。
 きっと幸せに浸れるだろうと、幸司の抱擁を想像すると美幸は顔を真っ赤にして俯いた。

「俺もキスだけじゃ足りない」

 美幸の恍惚とした顔に当てられた幸司は、すっかり気分はその気にさせられ体が反応してしまう。

「まって、これから病室へ行くのに……、それじゃ」

 抱き締められる美幸には幸司の体の反応がハッキリと伝わる。あまりにも生々しいその感覚にどう反応していいのか美幸は困ってしまう。

「美幸を抱きたい」

 こんな時にそんなセリフは不謹慎だとは分かっていた。美幸は父親が心配で病院へ来たのに、娘婿の自分は親の心配どころか嫁を抱きたくて下腹部を疼かせるなんて……

 けれど何故かこの時、美幸を放せなくて、もっと抱き締めたくて、もっと自分だけのものだと感じたくなった。美幸は自分のものだと、その白い肌にたくさんの印を付けたくなった。

「美幸は俺のものだ」

 その言葉が何を意味するのか。美幸はその意味を知りたいのに知りたくなかった。もし、自分が幸司へ寄せる想いと違うものであれば、酷く悲しみに包まれるのは分かっている。それだけに知るのが怖かった。

 なのに幸司は更に熱い眼差しで美幸が抗えなくなるほどに誘う。

「ホテルへ行こう」

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