好きにならなければ良かったのに
それにこのところ幸司に服を脱がされて眠ることもある。それに裸の状態で眠っていたこともあった。だから、今更恥ずかしがる必要もなさそうで。羞恥心でいっぱいにはなるが思い切ってスカートも脱ぎ下着姿になる。
服はベッドの反対側にあるラブソファ横の、衣類掛けスペースにハンガーが下がっており、そこへ服がシワにならないように掛ける。
振り返って部屋全体を見渡すと、自宅の寝室とは違ったとても華やかで落ち着かない室内に美幸は妙な気分になりそうだ。明るい壁紙に真っ白い布団がとても印象的で、清潔感はあるものの何故か厭らしさを感じる。しかし、眠るのは目の前にあるベッドだけ。仕方なくそのベッドの中へと潜って行く。
妙なもので、布団の中に潜ってしまうといつもと違うドキドキ感が美幸を襲う。自宅の布団と肌触りが違うからなのか、或いはフワフワ感がいつもより増して感じるからなのか。それとも下着姿で横になっているからなのか、目を閉じてもなかなか眠れない。
それどころか、浴室から聞こえるシャワーの音に、幸司が今、体を洗っているのだろうかと浴室の中を想像してしまう。逞しい体つきの幸司の骨ばった指が、シャワーから流れる湯に濡れた髪を掻き上げ、シャンプーを洗い流している光景を脳裏に浮かべる。
(きっとシャンプーを洗い流してるんだわ。顔を滴り流れるお湯が……きっと、素敵なんだわ……)
幸司の引き締まった腹筋や太股が美幸の閉じる瞼に映し出される。その姿に美幸はますます心臓がドキドキして破裂しそうになる。
ついさっきまで、幸司と晴海の仲を裂いた罪悪感に見舞われ泣いていたとは思えない程に胸が高鳴る。美幸はシャワーの音にその罪悪感はかき消されてしまう。
幸司が動く度に浴室から響いて来る音に美幸はビクンと躰を反応させる。どうしても聞こえてくる音一つで幸司が今どんな仕草をしているのか想像が出来てしまう。胸を弾ませていると浴室のドアが開き、洗面所のバスタオルを手に取り躰を拭く音がする。
きっとがっちりとした背中の筋肉がムキムキと蠢いていることだろう。そう思うと、ますます美幸の胸はざわついて眠れやしない。
「美幸、風呂に入らないのか?」
いきなり幸司に声を掛けられ言葉につまった美幸は、頭に敷いていた枕を掴むと引き寄せて、ギュっと胸に抱きしめる。
「美幸? まさか帰ったんじゃ……」
少し慌てた様な声を出した幸司はバスタオルを頭から掛けたままベッドルームへとやって来る。横目で洗面所の様子を窺い見る美幸の瞳には、逞しい幸司の裸体がハッキリと映し出される。